■出自■
たとえAIDで生まれたことを告知されたとしても、現状では提供者を知ること(=出自を知る権利)ができません。また半分を同じ提供者からのルーツとする兄弟姉妹もわかりません。自分の生物学的なルーツに関しての情報を得ることができないということです。
最近では養子の場合も告知を勧められています。それは子供のアイデンティティーのためには必要な情報であると認識されてきたからです。そして嘘のない関係が理解と信頼を支えることがわかってきました。
生殖技術によって生まれてくる人にも、そうでない人と同じように出自を知る権利があります。(※子どもの権利条約)提供者には養育の義務はありません。しかし、提供したということには責任を持つことが必要だと思います。AIDが献血や臓器移植と大きく違うのは、提供することで一人の人間が生まれてしまうという点です。
提供者を明確にすることはAIDに関わった医療と提供者と両親が、生まれてくる子どもにできる重要な環境作りのひとつになります。
※ 実親を知る権利…こどもは必ずしも実親と同じ家庭で育てられるわけではありません。養子、里親、親との分離、受胎時の医学的介入(例:ドナーによる人工受精)などの事情も含まれます。第8条では実親を知る子どもの権利が明記されています。(「ソーシャルワークと子どもの権利」国際ソーシャルワーカー連盟編著より引用)
■出自を知りたい
出自とは「生まれ」のことをいいます。
どのようにしてこの世に生まれてきたのか、誰と誰の子どもなのかということを示します。
AIDにより生まれた人にとってはAIDによって生まれ、提供者は誰なのかということです。
出自を知るということが、どうして大切なのでしょう。
多くの人は小さい頃から両親が誰かということを、特別意識せずに知っています。
そしてその親と日々暮らしながら、自分を確認して成長していきます。
親と似ているところ、似ていないところ、日々の生活の中で育まれた部分も含めて自己を確認していきます。外見だけでなく性格や体質、気質なども確認することになります。そうして自分を知るなかで、自分に必要な人生を進むことになります。
成長の途中で、あるいは成人してから確認してきた情報が間違いであったことを知るとそれまでの確認作業をやり直すことになります。
出自とは、わからないのであればわからないなりに重要な情報で、嘘の情報であっては困るのです。
■遺伝的情報の欠落
出自がどうして大切なのか、もうひとつ大きな理由があります。
私達は外見や素質同様、体質も受け継いでいます。皮膚が弱い・アレルギー反応が強く出るといったものから、糖尿病になりやすい・高血圧になりやすい・ガンになりやすい…など様々なものがあります。
その人のみ生まれ持った体質もあるかもしれませんが、それは家族歴がわかって初めてわかることです。
病気や怪我等で医療にかかる時、あるいは健康診断で家族歴が空白となります。
特定の体質を受け継いでいる可能性を知っているならば気にかけて生活していくことも可能ですが、それもできません。
これらのことがAIDによって生まれた人にとって不安になります。
自分を知らなければ自分を守ることはできません。
出自は個人情報として知らされる権利があると思います。
医療によって自分の情報と切り離されることは不都合です。
不妊治療は親が受けるものですが、それを受け入れて生きていくのは生まれた子どもです。
AIDという生殖技術を続けるのであれば、生まれてくる子どものことを考えて出自を知る権利を守る法整備を急ぐべきだと考えています。